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モノノベ第17
岡本太郎の世界

大阪にある象徴的なシンボル『太陽の塔』。 知っているようで知っていない。 生まれた時からそこにある。そう言うもの。 太陽の塔は、芸術家『岡本太郎』によりデザインされたものである。 あの塔にはどんな意味が込められているのだろう? はたまた中は何が詰まっているのか?それとも空洞なのか? 今日は実際に中へ入ってみる。 ついに今まで謎に包まれていた太陽の塔の体内へ進入するのだ。

芸術家 岡本太郎

まず岡本太郎とはどんな人物だったのだろうか。 噂通りただの変なオジサンなのだろうか。 1911年(明治44年)2月26日、現在の川崎市に生まれる。 父は漫画家の岡本一平、母は歌人で小説家のかの子である。 生まれながらにして芸術家の才能をもっていたと言っていいだろう。 幼少期の頃から人とは違っていた太郎。 『自分の信じる事以外は受け付けない、妥協したくない』 と言う理由で一度小学校を退学し、また違う小学校へ通学していたそうだ。 1929年18歳の時、父・一平のロンドン軍縮会議の取材旅行でパリへ向かう。 彼の人生に影響を与えたエピソードが、このパリだ。 1932年21歳の時に、ラ・ポエッシー街のポール・ローザンベール画廊でピカソの作品『水差しと果物鉢』に感動する。 その後、非具象芸術グループ『アプストラクシオン・クレアシオン』に入り数々の作品を出品し、芸術の才能を磨いていったのだった。 しかし戦争が活発化し、ドイツ軍がフランスに侵略してきた事により帰国せざるを得なかった。 帰国後も太平洋戦争真っ只中で、中国にて兵役につく。 この状況下でも上官の肖像画を描いたりなど、芸術への情熱を捨てていなかった。 戦後も太郎は情熱溢れる力強い作品を出品し、不安と悲しみの中にいる人々に勇気と希望を与え続けた。 そして今日、潜入する太陽の塔を作ったのは1970年59歳の時だった。 これはこの年に開催されたアジア初の日本万国博覧会のシンボルゾーンのテーマ館の一部として建てられたものである。 高さ70メートルと巨大で、今もなおバツグンの存在感を発揮している。 子供の頃のコレの第一印象は、『不気味』であった。 胴体に3つの顔を持ち、この顔が夜ライトアップされる。 中国自動車道から見えるこの不気味な顔に、幼き頃より恐怖感を感じていた。 皆同じだったと思う。 当時の大阪万博のテーマは『進歩と調和』だった。 しかし太郎は『人類の進歩と調和なんて大嫌いだ、オレはべらぼうなモノを作る!』と言い、 テーマに反し自分の信じるモノを作ったのだ。 今では考えられない事だろう。 テーマに反したモノを作るだなんて。 決まっている事、正しいとされる事に捕らわれ、本質的な事から目を逸らし本当にすべき事、やりたい事を出来ない社会になっている。 岡本太郎はこうも話している。 真の調和と言うのは、用意されたモノではなく情熱と情熱がぶつかり合い、融合した時に出来るモノだと。 そういった化学反応が起き、その中から本当に良いモノが生まれるのだ。 建築家『丹下健三』が設計した太陽の塔に、『あいつをボカンと打ち破りたい』と話し、中を空洞にして生命の樹を作った。 本来万博と言うのは、各国の最新の技術をお披露目する場であるが、それとは全く違うこれまでの生命の進歩に基づく作品を作ったのだ。 テーマに反したモノを作ったが、大阪万博は6400万人もの人々を集客した。 実際にこの太陽の塔及び生命の樹は、人々からの反響も良く、壊さず残して欲しいと言う要望により、今日もその場に立ち続けている。 結果的に人々の心を魅了したと言う事だ。 決して決められた事が正しいとは限らないと言う事を証明している。 さて、そろそろ岡本太郎の情熱を感じてこよう。

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生命の樹

モノレールに乗り向かう。 電車と違い、発車と停車の瞬間の急な動きに慣れないものだ。 あの衝撃はどうにかならないものか、、、 しかし空中飛行を楽しめると言うメリットもある。 久々に乗ると楽しい。 子供たちも一番前の席を陣取り、夢中になっている。 万博記念公園で下車。 今日もむすっとした顔で出迎えてくれている太陽の塔。 あらかじめ岡本太郎という人物について下調べはしてきた。 どんな情熱を魅せてくれるだろうか。 上から黄金の顔、真ん中の太陽の顔、そして裏にある黒い太陽。 黄金の顔は未来を、太陽の顔は現在を、黒い太陽は過去を象徴している。 太郎曰く、現在の顔を表す太陽の顔は青春をも意味しているらしい。 確かに青春時代は、このむすっとした表情のように気難しい面もあるなと思う。 世の中に不満をもっている顔、エネルギーを持て余している様子だ。 太郎は『人生は一生青春だ』とも述べていた。 今の私に青春という二文字が心の中にあるのだろうか? 毎日制約の中で生きている。限界を自分で決めている。 「そんな事できる訳が無い」と勝手に諦めている。 そんな事ではこの塔の中に入る資格はない。 今から見るモノに固定概念は一切無くして中に入らなくては。 螺旋状になっている通路を下り、いよいよ入口の前に立つ。 『青春』と言うパスポートを握りしめ、いざ中へ・・。

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その中は薄暗く、奇妙なお面がいくつもある。 「ボーンカチカチ」と言う音が辺りに鳴り響く。 時の音のようだ。 無数の面や埴輪のような物が並び、その中央には巨大で不気味な黄金色の顔があった。 目しかついておらず、鼻も口もない。 顔と呼ぶべきか? 人間の顔とは思えない。未確認生命体の顔だ。 その顔は凸凹で包帯ぐるぐる巻きのミイラのような。 これはれっきとした岡本太郎の作品で、『地底の太陽』と言われる第四の顔である。 中に入らないと見れない代物という事か。 この第四の顔を援護するように、左右に散らばる不気味なお面は埴輪のように見える。 なぜなら太郎が縄文文化に影響を受けていた為だ。 このような事から、太陽の塔は埴輪をイメージしたものと言う説もある。 他にもカラス、天照、真榊説など色々と言われているが一体何をイメージしたのだろう。 地球の奥底にいるような空間から出ると、高さ40メートルほどの巨大な樹が現れた。 赤黄青緑の派手な樹だ。 これこそが、太陽の塔の空洞の中にある正体『生命の樹』だった。 中にこれが隠されているとは驚いた! 地底からぐわ〜っと天に向けて伸びていて、凄まじい生命力を感じる。 岡本太郎が作った生命力の象徴である。 上に登っていくにつれて、単細胞から魚類、恐竜、人類が誕生するまでの進化を見る事ができる。 こうしてみると、物凄く長い年月をかけて進化している事が分かる。 人類の起源はホモ・サピエンスなどであり、地球が誕生してから何億万年も経ってからの事だ。 ましてや今の人間と呼ばれる生物が生まれたのは、地球という大きなくくりで考えたら、たった1秒くらいの時間にしか過ぎないのだ。 確かに。 岡本太郎が話した『人間が進歩を語るなんて馬鹿げている』その言葉の意味がよく理解できる。 およそ50年もの間、この生命の樹はあのぶっきらぼうな太陽の塔の中で守り続けられていた。 いや、それよりもっと、もっと昔からこの生命の樹は、この場所に立つべくとして立っているのかもしれない。 それを岡本太郎が具現化したに過ぎないのかもしれない。 帰り道、最後にもう一度太陽の塔を見上げた。 この静寂の中に、サイケデリックな異次元の世界が存在していると誰も分からないだろう。 奇抜でワクワクとした空間の中に、伝えたいメッセージを込めている。 それが岡本太郎の世界だ。 青春パスポートの半券を手にした私のこれからの世界は、キラキラと輝き続けるだろう。

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文章:ボタ餅 写真:てんぐ

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