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モノノベ第7
1年越しの舞台に立って

『愛染祭り、今年は開催します』

嬉しいニュースが目に飛び込んできた。 大阪の夏祭りのトップバッターである愛染祭り。 大阪に夏の知らせを届けてくれる重要な役割を持っている。 昨年はコロナウィルスの影響により、祭りは全て中止、愛染さんもオンライン配信という形を取っていた。 お祭り大好き人間の私にとって、この上ないビックニュースであった。

令和3年6月30日

ジトジトした暑さではなく過ごしやすい気候の日。 浴衣姿で出迎えてくれる愛染娘たち。 足早に境内に入って行く人々。 寺の裏側から聞こえてくる、地車の太鼓の音。 高なる鼓動を抑えながら中へ入った。 出店などはなく、規模を縮小しての開催。 迷いや不安のある中、開催しようと決めてくれた住職に感謝を送りたい。 2年ぶりに大阪の夏の始まりを感じたような気がした。

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愛染祭りは、天神祭・住吉祭と並んで大阪三大夏祭りの一つである。 そもそも夏祭りの起源は、天災や疫病を神々の祟りだと考え、それを鎮める為に、人々が神や仏に祈りを捧げた事に始まる。 今この時代に、一番重要な行事であると私は思う。 本堂で住職が護摩をしている。 愛染明王の前に座り、メラメラと燃える炎に護摩木を投げ入れ、お経を唱えている。 愛染明王のお顔も熱気でより一層、真っ赤に染まっている。 『オンマカラギャ バゾロシュニシャ バザラサトバ ジャク・ウン・バン・コク』 愛染明王は、良縁、夫婦円満、無病息災などのご利益があり、恋愛成就として名高い。 仏教では、恋愛というものは人間の持つ煩悩の一つに数えられ、それを捨てる事こそが悟りを開く道とされてきた。 だが密教は、この辺りがちょっぴり違って、人間には煩悩があるからこそ、悟りを求める心が生まれてくるのだとされている。 それを象徴するのが、愛染明王なのだ。 女子にとっては、ウヒャウヒャ案件ではないだろうか。 もしかすると、この真言を唱えれば恋愛成就するかもね。知らんけど。

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さて、ここからが今日のメインイベント。 大阪の夏に地車が戻ってきた! 以前にも述べたが、私は祭をこよなく愛する人間で、三度の飯より地車好きという事で有名である。 本堂の裏から聞こえる『ドンドンチキチン』という音。 どんな演奏を聞けるのかワクワクする。

2年ぶりの舞台に立つ、地車クルー「かずら」

大太鼓、小太鼓、鐘、そして踊り子の5人で形成されている。 チームによって演奏の仕方も曲も違うのが、見所の一つ。 それぞれが出す音が他の音と共鳴し、一つの音を創り出している。 その音に合わせ、龍踊りを舞う。 地車の演奏は、ある種のダンスミュージックでもある。 太鼓と鐘の音でビートを刻む。 毎年私は、ビール片手にステップを踏んで踊ってしまうのだ。

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『我らのダンスホールへようこそ!』 「ドンドン」と言う大太鼓の音が始まりの合図。 その音に続くように鐘、小太鼓と続く。 客席では皆がパフォーマンスを心待ちにしている。 曲の旋律が噛み合い出し、地車ミュージックが滑り出した。 お祭りに鳴り物がないのは、やっぱり寂しい。。 演奏を聞きにきているお客さん達の表情は、懐かしい風景を見ているようだった。 少しずつ止まっていた世界が動き出している…。 2年ぶりに舞台に立ち、世の中に風を吹き込んでくれている地車クルー。 演奏も終盤に差し掛かり、盛り上がりはMAXに。 太鼓を叩く音から、色んな感情が溢れ出てきている。 『本当にこれでいいの?』 と、問いかけられているようだ。 物事を動かす事って、とても勇気のいる事だと思う。 でも誰かが始めないと状況は変わらない。 今ある問題にしっかり向き合って考えていかなければならない。 その太鼓と鐘の音に乗せて、色んな思いを感じられ、グッときた。 物事を動かすタイミングが来ている。 止まらず走り続けよう。 勇気を与えてくれた地車クルー「かずら」に乾杯!

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今年は夏祭りに行けて良かった。 『祭スト』の私にとって、この上ない至福のひと時であった。 日本の夏は素晴らしいんだよ。 来年こそは、地車の音と人々の笑い声が聞こえてくる夏になりますように…。

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文章・写真:ボタ餅

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