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モノノベ第13
カモのはなし 奈良編

御所という町を知っているだろうか? 金剛山、葛木山などの高峰が連なり、そのまた奥には大台ケ原の山々が深く続く人里の最終地点といったところか。 その山々の麓では昔ながらの綺麗な田園風景が広がっている。 今日この地へ来た事に理由が二つある。 一つ目は先日訪れた出雲で『アジスキタカヒコネ』という神様の事が気になり調べたところ、高鴨神社に祀られているという事が分かった。 なぜその名前が頭に浮かんだのか分からないけれど、アジスキタカヒコネは大国主命の子孫である。 スピリチュアル的には『呼ばれた』と解釈するのだと思うが私はそういう類ではないので、ただ単に気になるので行ってみようかという話だ。 二つ目は単純に近頃運動不足なのでハイキングでもしてみようかと考えたところだ。

鴨一族

全国には多数の鴨(賀茂)神社が存在するが、そもそも『カモ』とは何なのだろう? 『カモ』の語源は、神魂(かもす)と言う言葉から派生し『カミ』→すなわち『神』であるとのこと。 島根の松江に神魂神社という神社がある。 その名の通り神(カミ)の神社、祭神はイザナミ・イザナギであり本殿は室町時代に建てられたもので国宝に指定されている。 また大和名門の豪族である鴨の一族の発祥の地がこの御所という事もあり、この地から鴨一族が散り移住した地に『カモ』(鴨、賀茂、加茂)という名が付いている。 京都にも有名な上賀茂神社、下鴨神社とあるがこの高鴨神社から派生した鴨一族、カミの一族という事になるだろう。 そもそもなぜ、出雲にいた時にこの高鴨神社の祭神『阿遅志貴高日子根命』の名前が聞こえたのかは謎である。 御所の地と出雲の地。 何か関わりがあるのか? ひょっとすると何かあるのかもしれない。 ハイキングという名目を掲げ、いざカモの地へ潜入だ。

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大和の国

御所市一帯は日本神話のふるさとと言われ、高天原(神々が住まわれていたところ)が今の金剛山の山麓にあったとされている。 ここから神々の時代から数々の史実の舞台となった日本始まりの場所であり、歴史的に重要な遺跡や由緒ある寺社仏閣が多く残っている。 このような事から、全体的に良いバランスのとれたハイキングのモデルケースを紹介できると思う。 御所市のコミュニティーバスと言うものを利用すると、上手にこの御所の町を周る事ができるので要チェックである。 スタート地点は風の森というバス停から始まる。 特にこれといって普通の農村地帯なのだが、風の森という名前がとても粋なネーミングだ。 この辺りは日本の稲作発祥の地であり、田園風景がとても美しい。 秋の風に乗って揺れる草木の音色がこの地の歴史を感じさせる。 周りを山々に囲まれており四方見渡す限り自然ばかり‥。 山へ入るとそれはそれは山の精霊やケモノ達の世界が広がっているのだろう。 かつて神武天皇が九州から良い土地を求めて旅をしていた時、熊野の国から大和の国に辿り着けたのは、八咫烏(ヤタガラス)が導いたとされている。 この深い深い大台ケ原の山を、森の精霊がカラスに化けて道に迷う神武天皇を導いたのかもしれない。 おかげで大和の国は栄えたのであろう。 現在、書物によって明確に残っている歴史はこの奈良時代からのもの。 この地に住んでいた土蜘蛛という原住民は神武天皇によって滅ぼされ、現在の日本という国が出来たとされている。 そして神武天皇が初代天皇となり、御所から見える橿原に遷都した。 これより前の歴史が前作の『出雲国』である。 前置きはこのくらいにして先へ進もう。 風の森から農村を超え高鴨神社へ入った。 いつも思うが奈良の神社は田舎の田園風景から突如立派な建造物が出てくるので面白い。 奈良だからこそ見れる風景だ。 本題のカモの話だが、参道の脇に池がある。鴨はいないが鯉はいる。 なぜこの神社は人を惹きつけるのだろう? それはカモの語源が、『かもす』から派生したもので『気』を放出しているからだ。 鴨の一族は霊的能力を持った一族として知られており、この一族を氏神としてこの神社に祀っている。 主祭神は阿遅志貴高日子根命(あじすきたかひこねのみこと)、その御名は迦毛之大御神(かものおおみかみ)だ。 このアジスキタカヒコネは、ジブリ映画もののけ姫に出てくる『アシタカ』のモデルとなった神様として有名である。 この神様は、人の歩む道を目覚めさせてくださる神様として信仰されている。 何か人生を立て直したいなどと思う人々を導いてくださっているように思える。 アジスキタカヒコネは大国主命の子孫である。 国譲りで天照大神に国を譲った後、この大和の国に神武天皇が都を建てた。 もしかするとこの鴨一族の繁栄は、初めから大国主命によって考えられた事だったのかもしれない。。 私もこれを機に何かに目覚めるタイミングなのかと感じさせられた。

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カミからの試練

高天彦神社を目指し歩く。 本当に空気が美味しい。山々を見渡しながら食べる辛ダブチは格別だ。 高天彦神社は金剛山の麓に位置しているので、ここより少し登らなければならない。 上の方まで来ると御所の地形がよく分かる。 駅の方面には橿原神宮のある畝傍山や奈良盆地が見え、少し頭を横に傾けると、森に住むケモノ達の世界が見える。 人間の世とケモノの世の丁度中間地点がこの町であり、二つの世界を繋ぐ役割を担っているように感じられる。 高鴨神社から2、3キロほど歩くと高天彦神社の参道が見えた。 鳥居を潜るといきなり山登りが始まった。 辺りは鬱蒼としている薄暗い森の中。 先程まで居た人界とはまた違う感覚を肌で感じる。 石畳の階段を一歩、二歩、三歩と登り続ける。 高い木が空高く伸びており、周囲の状況を知る事はできない。 いつまで登るのだろう?そろそろ本殿が見えてもいい頃だ。 このまま私をケモノ達の世界に迷い込ませる気なのか‥。 もう冬も間近に迫っていると言うのにヤブ蚊が生息している。 どんどん森が深まる。鳥の鳴き声すらしない。 鳥居を潜り参道を真っ直ぐに進んできたはずなのに、なぜたどり着かない? もう10分は登り続けている気がする。 ひょっとして、この御所の森の精霊達にイタズラされたのではないか‥。 いい大人のくせして、心臓がバクバクと鼓動を打つ音が静寂な森の中に響き渡る。 自然と歩くスピードが早くなる。無我夢中で歩く、歩く、歩く。 蜘蛛の糸を顔に巻きつかせながら、ボウボウと伸びきった草を搔きわけると一筋の光が見えてきた。 あそこが終着点か? 光の筋の方へ出るとそこは暖かい陽の光に満ちた楽園だった。 先程までの薄暗く湿った森ではなく、コスモスが綺麗に咲きモンキチョウが飛んでいる。 天国とはこのような場所なのだろうと感じてしまうほどに美しい景色だ。 まさに終着点である。 二匹のモンキチョウが、道案内をしてくれているかのように私の前を交差しながら飛んでいく。 私はその二匹に導かれるがままに後をついて行くと、樹齢数百年であろう立派な杉の参道の先に本殿が見えた。 これこそ神話のふるさとに相応しい神社ではないだろうか。 ここに来るまで薄暗い森の中を歩かされて、人間の心の強さを神様に試されていたのではないかと思う。 途中、道を間違えていると引き返す事も出来たのだ。 ただ一心にこの道を信じ歩き続けたからこそ、この素晴らしい場所に辿り着けたのだ。 高天彦神社の主祭神は、高皇産霊神(たかみむすびのかみ)と言い、宇宙創造の神様である。 すなわち万物の起源、生成神である。 とてつもなく巨大なパワーの持ち主であると言う事は確かだ。 御神体は白雲岳という金剛山に連なる山の一つであり、古くからの神祀りである。 この世の全てはこの高天原から始まり、徐々に日本という国は造られていった。 生成神である高皇産霊神には、今日私がここに来る事はお見通しだったのかもしれない。 もしくは導きの神、アジスキタカヒコネの思惑か。 考えてもわからないから、これまた面白い。 高天原からだんだんとまた森の中を降り、人里に着いた頃には今まで違う世界に居たのだと感じられた。 高天彦神社の参道の入り口から、この白雲岳の神の領域の中を歩いていたのだろう。 非現実的な経験が出来た。 今日のハイキングコースは想定6キロほどの登りあり、降りありの満足感たっぷりのコースだった。 是非行って見てほしい。 私がなぜ出雲で高鴨神社の祭神に呼ばれたのか探ってきたが、結局のところ理由は分からない。 ただここへ来て分かった事は、私にとってのヤタガラスは白雲岳に棲む精霊が化けたモンキチョウだった、と思う。 色んなことが絡み合い、タイミングが満ちてこの場所に導かれたのだと言うこと。 次回更にカモの謎を解く為、京都に向かう。 上賀茂神社と下鴨神社。 どんな『カモのはなし』が知れるか楽しみだ。

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文章:ボタ餅 写真:てんぐ

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