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モノノベ第14
カモのはなし 京都編

舞台は京都。 奈良と並び日本の歴史が色濃く、そして古くから存在する場所。 人々の心を魅了する京の町は、奈良と少し違い俗の誘惑が多いような気がする。 神聖さを感じる奈良と、風情を感じる京都。 飲み物で例えるならば、日本酒とビールのような。。 なんとなくそんな風に感じる。 前回に引き続き『カモ』の謎を解く為、二つの場所に向う。 京都にも賀茂別雷神社、通称『上賀茂神社』と賀茂御祖神社、通称『下鴨神社』の二つのカモ神社が存在する。 前作でも話した通り、総本宮である高鴨神社から派生したものである。 読み終えた時には、君もきっと京都に行きたくなっているだろう。

旅の始まり

京阪電車に乗り終点の出町柳へ向かう。 大阪から京都に行くには阪急、JRとあるがその中でも京阪電車がお気に入りなのである。 大阪から京都まで、その土地ごとに違う車窓から見える風景が移り変わっていくのが面白いのだ。 この京阪電車は京都の東側を通るルートである。 ご存知の通り京都の街は碁盤の目と言われ、東西・南北が規則正しく直行している。 それゆえ京阪電車の駅名も七条、清水五条、祇園四条と一本ずつ道を上がっていく。 そんなところに私はロマンを感じたりするのだ。 『碁盤の目』と言われるようになった由来は、今から遡ること西暦794年。 平安京の町づくりをする時に中国の都・長安や洛陽をモデルとして大路・小路を碁盤目状に配した町割りがなされた為である。 確かにどの道も同じように並んでいるので、今どこにいるのかふと迷ってしまう時がある。 特に木屋町や先斗町は路地も狭いところが多いし、迷路みたく感じる。 今日はどんな形で私を魅了してくれるのか楽しみだ。 約1時間の電車の旅を終え、いざ京都の町へ。

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京都に二つの賀茂神社が存在する理由

出町柳から歩いて下鴨神社に向かう。 ちょうど紅葉シーズンで、紅く黄色く京都の町を彩っている。 鴨川デルタに差し掛かったところで一羽のカラスに出会った。 橋の上にちょこんと立ち、人間に構う様子もなく堂々としている。 頭の上の毛をフサフサと風に揺らしながら何か考えているようだ。 逃げようと全くしないので見つめてみた。 その小さな瞳に私はどのように写っているのだろう? 今から向かう二つの神社は、ヤタガラスと深い結び付きがあるから私が道に迷わないように見に来てくれたのだろうか。 なんて可愛いカラスなんだ。 そのカラスが向かう方へ私は歩き、糺の森から下鴨神社の参道へ。 下鴨神社の表参道に広がる糺の森は、まさに古代の原野と言うほどに樹齢600年から200年の樹木が何百もある。 奈良と違うのは、その森のすぐ外は街だと言うところ。 森の中には小川も流れており、天皇や貴族たちがその昔この土地で優雅に散歩していたのだろうか。 と、そんな情景が目に浮かんでくる。 下鴨神社の参道を歩き進めて行く内にふと思った。 そもそもなぜ京都には二つのカモ神社が存在するのだろう?と。 前作の舞台となった奈良県御所市に初代鴨一族は住んでいた。 神武天皇の東征の先導役を務めた神が、初代鴨一族の賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)であった。 この神は下鴨神社の祭神の一人であり、もう一人の神は玉依媛命(たまよりひめのみこと)である。 一行は京都に向けて、大和葛城山そして現在の京都府木津川市加茂町を通り、賀茂川上流域へ到着。 そしてそこに根を下ろしたのではないかと考える。 賀茂建角身命は、「あぁ、この辺りは住みよい場所だ。」と感じ奈良時代より前からこの地域に住み、京都一帯を支配していたのだろう。 確かに京都は、奈良と同じく四方を山で囲まれており盆地である。 敵が攻めにくい場所である為、都を築くには適所である。 導きの神である鴨一族は、住みよい場所を見つける天才なのだろう。 現在でも鴨川に癒しを求め人々は集まってきており、京都の街の中心となっている。 今や鴨川名物となっているが、川沿いに等間隔で座りたくなるカップルの心情もよく分かる気がする。 話を戻そう。 京都の賀茂神社の起源は、賀茂建角身命がこの地域を気に入り住み着いた事に始まる。 賀茂神社は元々、現在の上賀茂神社の一つだけ存在していた。 賀茂建角身命の娘である玉依媛命が賀茂川上流で身を清めていたところ、一本の丹塗矢(にぬりや)が流れてきたそうな。 この矢を持ち帰り床に置いたところ、矢に込められたパワーに魅せられ身ごもったそうな。 そして産まれた子供が賀茂別雷大神であり、上賀茂神社の祭神である。 宴会の席で賀茂建角身命が賀茂別雷大神に、「自分の父と思う者に盃をすすましめよ」と言うと、賀茂別雷大神は「自分の父は天津神(あまつかみ)なり」と言い盃を天井に投げて、雷鳴と共に天に帰ってしまったらしい。 天津神とは高天原に居る神々のこと、すなわち御所である。 天津神の中に高天彦神社の祭神である高皇産霊神がいる。 よってこう考えられる。 丹塗矢は火雷神の化身とされているが、高皇産霊神が送った使者であった可能性が高い。 万物の生成神のことだから京都の賀茂一族の繁栄を心配し、なされた事かもしれない。 したがって奈良と京都は昔から深い繋がりがあるという事が分かる。 その後下鴨神社が誕生したのは8世紀半ばと言われ、元々上賀茂神社の分社として存在していた所を整備して出来た。 分散させた理由は、朝廷が賀茂氏の勢力を恐れており二つに分ける事で力を抑える事ができると考えたからだ。 それほどに賀茂一族の持つ力は、京都で大きいものだったのだ。 これが京都に二つの賀茂神社が存在する理由だ。

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カモの真実

下鴨神社から賀茂川沿いを歩き上賀茂神社へ向かう。 時刻は15時を過ぎていた。 少し急ぎ足で向かわなければ日没が迫っている。 カモ歴史の謎にどっぷりつかってしまって、時間を忘れてしまっていた。 川にはたくさんの鳥たちがいて、水中に頭を突っ込んでは魚を探している。 優雅にスイスイ泳いでいるように見えるが、水の中ではその短い足で必死に漕いでいると思うと愛らしい。 鴨川デルタより上流は、同じカモ川でも神社の漢字が違うように鴨川→賀茂川に変わる。 漢字が違うのは、単に両社を区別する為らしい。 賀茂川には、何本もの橋が架かっていてその橋の上を通る車やバス、自転車がとっても絵になる。 自然が多く、適度に都会。田舎だけど、田舎じゃない。 少し足を伸ばせば飲み屋街もある。 京都に住みたいと思うのは、この情景を見ている時だ。 近頃は外国人観光客がいないので、ゆっくりと京都を満喫でき、訪れる日本人も多いのではないだろうか。 本来の京都のあるべき姿に戻ったと言える。 明治に入るまで、天皇はずっとこの京都に住んでいた。 西暦794年に平安時代が始まってから、1100年間にわたって日本の中心であった町だ。 すなわち、ほんの150年程前までずっと京都が都だったのだ。 政治は江戸、都は京都。と分かれていた為、関西圏の文化の発展があったのだと言える。 全てが江戸に行った今でも、京都は古都として人々を魅了し続けている。 それもこれも賀茂氏の権力が強かった為だろうと感じる。 さてさて、長らく続いてきた『カモのはなし』もそろそろ終盤。 実は上賀茂神社に参拝するのは初めてなのだ。 だんだんと鳥居が見えてきた。 何だろう?下鴨神社と雰囲気が少し違う。 参道の横で地元のサッカー少年が練習試合をしている。 地域密着型の神社なのだろう。 でもこの雰囲気、全国の今まで行ってきたどの神社とも違う。 地元の人に愛される神社でありながら、規模感はとても大きくお洒落である。 もう夕刻だと言うのに、何台も車がさざ波のように押し寄せてくる。 そうか。この真反対なモノが一つの空間に融合しているから面白いのか。 いざ中に入ってみると、突如立派なオッパイが私を出迎えてくれた。 とっても綺麗な形のオッパイで、左右均等である。 この神社の神主さんは結構スケベなのかな。 まさかそんなモノではなく、これは立砂(たてずな)であった。 この立砂はその昔、神が降臨された神山をかたどった砂で、憑代である。 神霊が依り憑く対象物の事で、つまり神域を指す。 上賀茂神社の敷地は23万坪もある広大さで、その敷地全体が神域のようなものである。 中央には小川が流れていて、草木が元気いっぱいにこの地に立っている。 何処にいても神様を感じる事ができ、散歩をしながら自分のお気に入りスポットを見つけてみても良いかもしれない。 かの有名な紫式部もこの場所を愛し、訪れていたそうな。 摂社の一つに片岡社と言う縁結びの神社がある。 「ほととぎす 声まつほどは 片岡の もりのしづくに 立ちやぬれまし」 紫式部がここで読んだ和歌が石碑に掘られている。 かつて貴族たちはこの場所で和歌を読み、恋心を楽しんでいたのだろう。 平安時代より変わらない形で、いつの時代も人々に勇気と癒しを与え続けてきてくれた場所だ。 そろそろ夕刻である。 帰り道にヤタガラスの形をしたおみくじを目にした。 「あっ!」 その瞬間、出雲で私を呼んでいたのはこの上賀茂神社なのだと分かった。 賀茂別雷大神が私をここまで導いてきてくれたのだろうと。 この一連の出来事で、私はここに至るまで数々の場所に行き、今まで知らなかった『カモのはなし』を知った。 人生まだまだ発展途上。 これからも面白いスポットを探し、意のままに日本を歩き続けよう。 『カモのはなし・完』

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文章:ボタ餅 写真:てんぐ

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