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モノノベ第15
裏神戸の歩き方

『神戸』と聞くと、どんな町を想像する? 洒落た建物やロマンチックな風景や人々を想うか。 代表的なシンボルと言えば、ポートタワーやルミナリエ、六甲山といったところであろう。 実は私もそのような所だと思っていた。 あまりロマンチックな遊び方は性に合わないし、どちらかと言えば酒好きだ。 だが意外と隠された通の遊び方が実はあったのだ。 江戸時代より盛んである『厄除け八社巡り』をしながら神戸を探索してみようと思う。 これは知られざる『裏神戸の歩き方』である。

神戸八社とは

神戸には生田神社の裔社(えいしゃ)が八社ある。 一宮、二宮、三宮、四宮、五宮、六宮、七宮、八宮と八つの社が存在する。 数字の順に参拝することを『八宮巡り』と言い、厄除けになるとされている。 このような事から江戸時代頃より、節分の時期に八宮巡拝が盛んになったと言われている。 この八社は、天照大神と素戔嗚尊の誓約で生まれた五男神三女神の八柱の神である。 しかしながら必ずしもマッチしていると言う事ではないらしい。 この八つの神は、一宮から順番に田心姫命(タギリヒメノミコト)、天忍穂耳命(アメノオシホホミノミコト)、湍津姫命(タギツヒメノミコト)、市杵島姫命(イチキシマヒメノミコト)、天穂日命(アメノホヒノミコト)、天津彦根命(アマツヒコネノミコト)、大己貴命(オオナムチノミコト)、そして最後が熊野杼樟日命(クマノクスビのミコト)である。 七宮神社のみ大己貴命(別名大国主命)が祀られており、一連の神様とは関係のない神様が祀られている。 この八社の並び方については、現在では相当ずれているが当時は北斗七星の位置に並んでいたと言う説がある。 また北斗七星のひしゃくの部分に生田神社が納まる形となっている。 今より昔、神戸に住む民は夜空に輝く星達に魅了され、星と同じ位置に神様を祀ったのではないかと思う。 本当にそうであればとてもロマンチックな話だ。 ところで『神戸』の地名の由来は知っているだろうか? 神戸(こうべ)と言われるようになったのは、江戸時代頃からと言われており、それより以前は神戸(かんべ)と呼ばれていた。 『かんべ』と言うのは、古代から神社には封戸(ふこ)と呼ばれる神の戸なるものがあり、生田神社には44戸の封戸が与えられていた。 この封戸とは、税を納めて神社を支える民家の事を言う。 『神封戸(じんふこ)』これが短縮され『神戸』となった。 つまりその民家(神封戸)が現在の三宮〜元町辺りにあった事が『神戸(こうべ)』の地名の由来である。 どの土地に行っても思うが、日本は昔から神の国であると気付かされる。 このような事から神戸八社は、生田神社の『神封戸』が住んでいたであろう場所だと捉える事が出来る。 早速この八つの社をまわって行こうと思う。

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八宮巡り

大阪から神戸までは電車で約30分。 山と海が近いこの地形こそ神戸の特徴である。 あらかじめ先に言っておくが、実は逆の順番で参拝している。 したがって最初のスタート地点は、新開地にある七宮神社である。 最終地点を生田神社にしたかったので逆から回ろうと決めた。 実はこの選択が悲劇を生む結果となる‥。 新開地の街に降り立つ。 神戸三宮とは違いアットホームな下町感が漂う。 大阪の西成よりは強烈ではないかな。 知らない土地に行けば『まず商店街を探せ』と言うモノノベルールがあるのだが、案外それは正しいと思う。 なぜならその土地の特産品や、イケてるお店、そして人々の事を知れるからだ。 新開地商店街は、まだ昼前なのに活気に溢れ老若男女まで幅広く集っている。 『立ち食いそば、うどん』のお店があちこち見える。 次回はこの辺りで一杯やりたいものだ。 神戸と言うとお洒落で敷居の高そうなイメージがあるが、なんだ面白い場所もあるじゃないか。 実はこの新開地、昔は神戸一の繁華街・オフィス街であり神戸の中心的市街地であった。 『東の浅草・西の新開地』と謳われるほどであったそうだ。 まだまだ掘り甲斐のある場所だが、今日は日暮れまでに八宮巡りを完了しなければならない。 またの機会にとっておこう。 まず一社目『七宮神社』参拝完了。

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次に向かうは六宮神社と八宮神社。 場所は神戸市楠町。ここより少し山側へ移動する。 この二つは明治初期に道路拡張の為、合祀(ごうし)された。 一気に二つの神社を参拝出来るので、スタンプラリー的なお得感がある。 実際に御朱印をもらってまわると良いだろう。 なんと私は御朱印集めをしていながら、うっかり御朱印帳を持ってくるのを忘れている。 ここからは坂道を登り五宮神社へ。 五宮神社は山の麓に位置している為、一番の難所だ。 神戸の住宅街の中を歩いていると次第に山が近づいてきた。 もうすぐ五宮神社と言う辺りまで来ると、民家の雰囲気も変わりつつあり、なんとなく京都の町に似ている気がした。 六甲山から流れてきているだろう湧き水が、家と家の間の小さな水路を伝っていく。 凛とした空気感が辺りを包み込んでいる。 心地良い空気をお腹いっぱいに吸い込むと体の疲れが吹っ飛んだ。 よし。一気に駆け登ろう!! 五宮神社は天空に浮かぶ神社と言っていいほど美しい場所にあった。 東はポートアイランド、南は神戸港、西は高取山や淡路島まで眺める事が出来た。 神戸の町を一望できる絶好の場所である。 関西に住みながら、この景色を観ないとは勿体ない事だ。 この神社の祭神は、天穂日命(アメノホヒノミコト)であり天照大神が身につけていた八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)から生まれた神様である。 神名のホは秀・穂、ヒは火を意味し『生命力が火のように燃え盛る秀でた稲穂』を表している。 よって力強いエネルギーがこの神社には溢れている為、厄除けは勿論、何か新しい事を始めたいと思い参拝すると、きっと神様が力をかしてくれるだろう。 次に向かうは四宮神社。 坂道を降り、元町の付近まで歩く。 悲劇はここで起きた。 街中にある神社は入り組んでいるので場所が分かりにくい。 地図を見ながら歩いていると、ニュルっと音を立てて滑った。 今日は雨でもないし、ましてや地面は土ではなくコンクリートだ。 ん?なんだ?!何が起こった?! 恐る恐る自分の靴の裏を見ると‥‥ 出来立てホヤホヤのチョコプリンを踏みつけていたようだ。 まさか『運』を付けるとは‥。 一瞬頭が真っ白になりその場で静止していた。 その時気付いた。 そもそも八宮巡りは、一宮から数字の順にまわって初めて完了する厄除け行事であると。 実は出発前、私には邪な思いがあった。 それは生田神社を最終地点にする事で、新しく出来た商業施設や三宮の繁華街で夕食を食べて帰れると考えたからだ。 そのような事から逆ルートでまわる事に決めたのだった。 これは神様からの有難く厳しい教えだと受け止め、次は順番に正規ルートでまわろう思う。 そして新開地で一杯飲もうと思う。

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反省をしながら元町に向かい、老舗の中華『丸玉食堂』でルーロー麺を食す。 傷心状態でもあるし、お昼時もすっかり過ぎていた。 なんて美味しいのだ。傷口を優しく塞いでくれるような味がする。 気を取り直して残る三つの神社と、生田神社をまわり切った。 この旅で気付いた事がある。 それは神戸は西へ西へ行くほど面白いという事。 三宮より元町、元町より新開地。 西へ行くほどローカルな『モノ』に触れる事が出来るだろう。 そして数字には意味があるのだという事。 邪な考えがあると物事の直感力、判断力を間違えてしまう。 知られざる通の遊び方『八宮巡り』。 是非一度みんなもまわってみたらどうだろう? くれぐれも逆からまわらないようにね。

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文章:ボタ餅 写真:てんぐ

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